「地域の資源」としての通所介護【岩手県盛岡市・フキデチョウ文庫】Vol.1

岩手県盛岡市。盛岡駅から北上川、中津川を渡り、街中を歩き懐かしい町屋の雰囲気が感じられる通りに、通所介護施設「フキデチョウ文庫」があります。

2013年7月に開所以来、地域住民向けの図書館や交流スペースを併設し、高齢者の居場所が地域の中で当たり前となる日常をつくり続けています。

運営する一般社団法人シアワセ計画舎代表の沼田雅充さんにお話をうかがいました。

 

なぜ「本」なのか

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1階の地域図書館(筆者撮影)

フキデチョウ文庫は1階が地域図書館になっており、地域のどんな人でも訪れることができます。

1階から2階にあがる階段の左右、2階にある通所介護スペースにも小説、雑誌、漫画や科学書などがずらりと並べられています。その数は7000冊ほど。実は、まだ図書館に並べていない本も倉庫の中にあるといいます。

 

ーなぜ通所介護施設に「本」を置き始めたのですか。

沼田さん:なぜ「本」か?というと、ある調査によると盛岡市は「本」「映画」等の娯楽にかける支出が高いことを知りました。本であれば地域の人が集いやすいのではないか、そう思ったんです。私自身も本が好きですし、これはいいなと思いました。今は1階2階合わせて7000冊ほど。ほとんどが寄付で集まりましたし、今も集まり続けています。

 

沼田さんは私立岩手高校卒業後、医薬品卸などの商社勤務を経て、40代で介護業界に転職。介護施設の責任者を務めました。現場に疑問を持ち始め、こうなったら自分の考えている介護の場所をつくろうと一発奮起。開設にあたって、大学生とともに本の寄付を募り始めたといいます。

沼田さん:たくさん本があるので、移動図書館をしている人と本を入れ替えたり、今後は人の集まる場所へ貸し出したりしていきたいなと思っています。

 

「本のある公園」の意味

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1階から2階へ上がる階段の左右も本棚になっている。(筆者撮影)

ーフキデチョウ文庫は、人の出入りが自由になっていますね。

沼田さん:「地域の資源」として通所(介護)をしています。じゃあ地域の中の役割としてどんなことが出来るだろうか?と。

まずは本を置きました。それから、地域の方から一切費用は頂かず、場所を開放しています。1階や2階のスペースでは大学のゼミ、団体の勉強会やミーティング。月に一度子ども食堂としても使ってもらっています。


「カレーキャラバン」という、全国各地のまちへ出かけ、その場所で調達した食材と、その場所に居合わせた人びとの知恵をまぜあわせ、その日、その場かぎりのカレーをつくり、みんなで食べるプロジェクトにも来てもらい、みんなでカレーを食べました。(様子はこちらから。)

フキデチョウ文庫はいわば「本がある公園」だと思っています。限りなく公共空間に近い場所です。それをスタッフにも、利用する方にもわかってもらうようにしています。

 

ー限りなく公共空間で過ごしていると。一般的な介護施設の環境とは真逆の考え方ですね。みなさんも思い思いの格好をして働かれています。

沼田さん:そうですね。例えば、公園に居る人たちって、名札をつけたり、ユニフォームを着ますか? 公園に過ごすのに、お金ってとりますか? 公園で過ごしてるんだから、色んな人が来て当然ですよね。公園は、勝手に来て勝手に帰るところなんです。ここも、そういう場所にしてきました。

 

高齢者の居場所が日常にある光景

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近くまで散歩を。写真右のお二人は仲の良い利用者同士だそう。(筆者撮影)

このフキデチョウ文庫では、高齢者と多世代が過ごす空間が同じ場所にあります。

介護施設でよく行なわれる子どもによる慰問(施設等を形式張って訪れること)はあくまで一過性であり、日常的な光景ではありません。

 

「あ、こんにちはー」

インタビュー中に、ある中学生の女の子が、2階の通所介護スペースに上がってきました。小学生から通っていたこともあり、フキデチョウ文庫の空間に慣れっこの様子です。


「今日は〇〇行くの?」
「あ、はい、少し顔を出しにいってこようと思って」

なんて軒先のようなやり取りを、後ろにいた通所介護を利用する人たちは思い思いに過ごしながら、聞いています。

 

ああまたあの子が来たんだな。町の〇〇の催し物にいくのね。目の前のやり取りから、きっと地域の様子を思い浮かべているのでしょう。
いつか私たちが年を重ねたとき、自分の居場所でこんな会話が目の前で繰り広げられる光景であって欲しい。そう感じた時間でした。

次回は「一時の楽しさよりも感情を引き出す。」フキデチョウ文庫の利用者の過ごし方についてご紹介します。


取材先情報

▷通所介護施設 フキデチョウ文庫

▷運営法人 一般社団法人しあわせ計画舎

▷住所 〒020-0871 岩手県盛岡市中ノ橋通一丁目8番6号

▷参照記事

子供と大人とお年寄り。みんなの「フキデチョウ文庫」|盛岡さんぽ
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