フキデチョウ文庫

一時の楽しさよりも感情を引き出す場所【岩手県盛岡市・フキデチョウ文庫】Vol.2

階段をあがると右手に通所介護スペースがある。(筆者撮影)

岩手県盛岡市。盛岡駅から北上川、中津川を渡り、街中を歩き懐かしい町屋の雰囲気が感じられる通りに、通所介護施設「フキデチョウ文庫」があります。

2013年7月に開所以来、地域住民向けの図書館や交流スペースを併設し、高齢者の居場所が地域の中で当たり前となる日常をつくり続けています。

通所介護を運営する上で必要な役割とは一体何か?フキデチョウ文庫の利用者の過ごし方について、運営する一般社団法人シアワセ計画舎代表の沼田雅充さんにお話をうかがいました。

 

一時の楽しさよりも感情を引き出す

ー通所介護施設の役割として考えていることをお聞かせください。

沼田さん:以前介護施設で働いているときから感じていたのですが、「デイサービスに来ている間だけの楽しさ」は違うと思っています。

デイサービスは夢の場所じゃない。笑ったり怒ったり、ときはメソメソしてもいい。そんな感情が生まれて、そして置いていく場所だと考えています。だから躊躇せず、あえてギスギスした感情に向き合います。

 

ーギスギスした感情に向き合うというと・・・?

沼田さん:先ほどお話ししましたが、ここは本のある公園ですから、色んな人が来るわけです。

例えば、ホームレスの人や引きこもり、学校に行けなくなっている子が来る場合もありますよね。「スタッフの間ではどうするべきか?」なんて話をしているんですけど、ここは本のある公園ですから、追い返す理由はないわけです。

そこで何か困っていることがあり、手を貸してほしそうであれば手を差し伸べる。それは制度にのっていないサービスなので当然、持ち出しの部分もあります。それに対して制度を利用している利用者さんからクレームがつくことがあります。

その際、介護保険の仕組みや負担割合などを納得いくまで説明(最終的に言いくるめるときもあります。笑)して、自分たちも地域の中で何らかの役割を担っているのだという自覚をもって頂くようにしています。

その、めんどくさい口論に近いやり取りも納得できるまで話して解決したときは、今まで以上の信頼関係がそこに生まれると思っています。一方的にそう思っていますね。(笑)


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この日いただいた昼食。普段から利用者が調理に入っている。(筆者撮影)

 

もやっとすることを大切に

ー確かにこのやりとりは、一般の介護施設では起こらないかもしれませんね。特に、「利用者に対して地域の中で何らかの役割を担っているのだという自覚を促す」という下り。フキデチョウ文庫らしさが真っすぐに出ているのだなと感じます。

沼田さん:はい。こうしてやり取りすると、相手にも私にも、もやっとした感情が生まれます。綺麗な感情だけが生活ではないですから、この感覚を大切にしたいと思っています。

 

ーこのやり取りは、スタッフとの申し送りなどで共有されるんですか?

沼田さん:細かく伝えることはしませんね。そこはあえてというか。人との関わりって、全てを文章化することはできないと思うんです。肝心なことは言語化できない。私はそう思っています。

 

隠れ場をつくる

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1階・地域図書館の”隠れ場”。(筆者撮影)

ー感情を引き出す、といった観点から、フキデチョウ文庫の物的配置について少し聞かせていただけませんか。

沼田さん:働き手が管理しやすい目線ではなく、あくまで生活の空間として、あえて隠れる場をつくっています。

利用者さんのいる2階の通所介護スペースにも木枠にガラスが入ったパーティションをひいて、壁をつくっている箇所もあります。

2階ではブースのようになっている席が3席。玄関から見たときに、誰が来ているのかは中に入らないと見えない造りになっています。だから会社員の方が休憩中にこっそり来て休んだり。こどもだって、隠れられる場所で漫画を読んだり。それから読むだけでなくゲームをしてる。

今ってゲームできる場所が限られてるんですよ。児童館でもだめ、学童でもだめ。そうしてフキデチョウ文庫に来て何時間もやってるわけです。でもそうすると女子に言われています。「ゲームする時間、決められてるんじゃないの?!」って。男子は顔を見合わせる。そんな光景が日常です。

 

ーあちらこちらに死角があるということは、家にいる環境にとても近いですね。

沼田さん:通所施設の役割というのは、だだっ広く怪我をしない場所で介護サービスを提供するというだけではなく、利用者が1日でも長く自宅に住み続けられるかということ。なので家と同じように死角や段差があって当然だと思うんです。

 

椅子と机が置かれ、テレビが置かれ、スタッフの動きやすさを最優先にして設計されることが多い介護の場所。フキデチョウ文庫は、心的・物的にも真逆のアプローチをしていることが伺えました。

 

次回は「自分の職場を親にみせられますか?」。フキデチョウ文庫のユニークな働き方についてご紹介します。

 


取材先情報

▷通所介護施設 フキデチョウ文庫

▷運営法人 一般社団法人しあわせ計画舎

▷住所 〒020-0871 岩手県盛岡市中ノ橋通一丁目8番6号

▷参照記事

子供と大人とお年寄り。みんなの「フキデチョウ文庫」|盛岡さんぽ
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