
【老い方は自分で決める国・デンマーク便り】デンマークの高齢者が学び直せる場とは Vol.5

留学したフォルケホイスコーレの寮からの景色。 筆者撮影
【老い方は自分で決める国・デンマーク便り】では、5つの様々な切り口で読み解くコラムを連載します。日本とデンマークの高齢者を巡る事情について比較をしながら、高齢者の暮らしをよくするためには何が必要かを考えていきませんか。
最終回は、「高齢者の学び直しの場所」。
生涯に渡って学びが大切だと考えているデンマークの人々。その根底にあるものとは一体なんなのでしょうか。
【老い方は自分で決める国・デンマーク便り】
■Vol.1 先回りしない介護の考え方とは
■Vol.2 光が射す高齢者が住む場所
■Vol.3 高福祉の要・高齢者委員会制度とは
■Vol.4 デンマーク人はこうして年を重ねる
生涯学習が人をつくる
デンマークには、全寮制の成人教養教育機関「フォルケホイスコーレ」(日本語では国民高等学校)があります。国内に約70校あり、シニア向けや障がい者向けの学校もあります。
18歳以上なら誰でも入学でき、入学試験がない代わりに得られる資格はありません。
フォルケホイスコーレは内容によって4つに分けられます。
・人文学系(哲学・文学等)
・体育系(運動、運動科学等)
・クリエイティブ系(建築、映像技術等)
・宗教系
こうした成人向けの教養教育機関が生まれた理由は、母国語のデンマーク語で行なわれる教育機関がなかった19世紀半ばにさかのぼります(※1)。
デンマークの教育者 グルントヴィ(※2)が、母国語で語り合う対話を重ね、生活する上で必要な社会の理解や民主主義の原則を学ぶことを目的とし、青年と教員たちが生活を共にする寄宿制の学校が現在のフォルケホイスコーレの始まりです。
以降デンマークでは、国民1人1人が社会の一員として社会への理解を深めるために、学び、人と対話することを生涯続けていこうという姿勢が引き継がれているのです。
青春は学び続ける姿勢にある
デンマーク国内約70校のうち、シニア向けのフォルケホイスコーレは2校あります。(※3)
デンマークでは公共教育機関の費用はかかりませんが、フォルケホイスコーレは公共教育機関ではないため、一部自治体による補助があるものの、生徒の費用負担が前提となっています。
①School Marielyst – for active seniors(84名定員)
バルト海に面し、デンマーク有数の美しいビーチからほど近いところに位置しています。
50歳以上のシニア向けのエクササイズコースから手工芸や文学まで様々なコースが用意されており、5日間から2週間の期間でコースを受けることができます。
また、図書館には8,000冊を超える蔵書があり、近代の歴史などの重要な文献も読む事ができます。
1906年に牧場主のための保養地として再建築され、1971年に現在のシニア向けのフォルケホイスコーレとなりました。
http://www.hojskolenmarielyst.dk/
https://www.facebook.com/hsmarielyst
http://www.ifas-japan.com/city/denmark_37/hojskole/marielyst/

School Marielyst – for active seniors アート制作の様子。http://www.hojskolenmarielyst.dk/ より
②SeniorHøjskolen, Nørre Nissum(80名定員)
海とフィヨルド、そして森に囲まれたシニア向けのフォルケホイスコーレです。
デンマーク近代歴史を学ぶコース、豊かな自然環境の中で自然を学ぶコース、コーラスのコースに力を入れており、5日間・14日間・旅行(長期間)の期間が設けられています。1971年に建築、開校しました。
http://www.seniorhoejskolen.dk/
https://www.facebook.com/SeniorHoejskolen
http://www.ifas-japan.com/city/denmark_37/hojskole/senior/

SeniorHøjskolen, Nørre Nissum 自然観察の様子SeniorHøjskolen, Nørre Nissumでの 自然観察の様子 https_–www.facebook.com-SeniorHoejskolen より
イメージとしては日本のカルチャースクールが近しいかもしれません。
カルチャースクールとの大きな違いは、寝食を共にしながら、歌を歌ったり、自分の考えを話しあったり、深夜まで語りあったりと、過ごす時間がとても濃密なことです。
クラスメイトと過ごす時間が10代だけのものではなく、年を重ねてもなおその時間を過ごせる場所が、シニア向けのフォルケホイスコーレなのです。
ゆとり、持っていますか?
ここまで5つの切り口で、デンマーク人の老い方をご紹介してきました。
・「高齢者の学び直しの場所」
実際にデンマーク人と時を過ごすうちに、あることに気がつきました。
それは、デンマーク人が「考える時間を持つゆとりを持っている」ということでした。
豊かな自然環境とほどよい便利さが手に入る社会に身を置き、太陽の光を浴びながら、お茶をする。そうして、いつも何かについて考えを巡らせているのです。そしてその考えを人と対話しながら時に深め、時に修正していく。
その時間こそが、老いていく道を自ら創ることにつながっているのではと思います。

港町ニューハウンでお茶をする人々 筆者撮影
《参照》
(※1)青年へ向けた教育機関といえば知識人だけがラテン語やドイツ語で学ぶエリー ト校の大学しか存在しなかった。
ICTの活用による生涯学習支援事業 (国外における実態調査) 報告書 2011年3月 みずほ情報総研株式会社
(※2)デンマークの牧師、作家、詩人、哲学者、教育者、政治家。
(※3)フォルケホイスコーレ紹介サイト調べ(2016年2月時点)
http://www.hojskolerne.dk/(デンマーク語)
筆者執筆記事 / 【レポ】プチ親子留学もウエルカム!デンマーク発祥の民衆大学「フォルケホイスコーレ」で学んだこと
http://www.glolea.com/ambassador/satoko-fujioka/denmark-oyako-ryugaku.html
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