【老い方は自分で決める国・デンマーク便り】先回りしない介護の考え方とは Vol.1

【老い方は自分で決める国・デンマーク便り】先回りしない介護の考え方とは Vol.1

デンマークは、「世界一幸せな国」と各調査(※1)で発表されています。
その要因としては以下の理由からと言われています。(※2)

  1. 民主主義の確立社会であること
  2. 社会保障・社会福祉政策の推進が顕著であること
  3. 地方分権が確立していること
  4. 女性の社会進出が顕著であること
  5. 男女平等社会であること
  6. 特徴ある教育政策
デンマーク

コペンハーゲンの港町ニューハウンの景色、筆者撮影

筆者は 2015 年 9 月に、デンマークの国民高等学校(フォルケホイスコーレ)にて短期留学し、民主主義の成り立ちや、幼児教育・高齢者福祉の現場視察を行ないました。その中で、福祉や教育に携わる行政や専門家へのインタビューを行ないました。

日本は 2000 年から導入された介護保険制度の後、社会福祉政策が進んでいるデンマークへ視察が相次ぎました。

下記の表からもわかるように、デンマークの人口自体が日本と比べて少ないため、デンマークで行われている福祉を日本にそのまま導入することが難しいという意見も多く上げられています。

デンマーク 日本
人口 約 560 万人 約 1 億 2 千万人
人口密度  130 人/K㎡  337 人/K㎡
国の面積  43,090 K㎡  377,900 K㎡
言語 デンマーク語 日本語
政体 立憲君主制 立憲君主制
投票率  71,9 %( 2013 年)  52,6 %( 2014 年)
消費税率  25 %  8 %
幸福度  1 位  43 位

 

【老い方は自分で決める国・デンマーク便り】では、 5 つの様々な切り口で読み解くコラムを連載します。日本とデンマークの高齢者を巡る事情について比較をしながら、高齢者の暮らしをよくするためには何が必要かを考えていきませんか

第 1 弾は、「先回りしない介護の考え方」。日本の介護の考えと比較しながらご紹介します。

 

「今日は何をする?」から始まる会話

デンマークの介護 3 原則(高齢者福祉 3 原則)、 1 つ目は「自己決定」です。

デンマークと日本の介護3原則

デンマーク 日本
1 自己決定 安全・安楽
2 生活の継続 自立支援
3 自己能力の活用 個人の尊厳

日本の介護保険制度では、本人の意思、家族の意思を確認した上で、ケアマネジャーがケアプランを決め、入浴は水曜日と土曜日…など、あらかじめプランが決められていきます
そのケアプラン作成の現場には、本人が不在で行なわれることも多くあります

一方のデンマークでは、「自分が何をしたいか」を「 1 日の始めに」決めることが多く行われています。例えば、施設で働く介護士との会話は、「今日は何をしましょうか?」から始まるそうです。
介護を受けている高齢者が週 2 回入浴ができる法案を通す、と公約したある政党のマニュフェストは、本人が決めることについて他者が口を出すべきではないという理由から全く支持されなかったほどです。(※3)

 

個々の営みを尊重した生活を

デンマークの介護 3 原則(高齢者福祉 3 原則)、 2 つ目は「生活の継続」です。
介護が必要になったときは、自分の家にいながら 24 時間体制の介護・医療のケアが受けられる「在宅介護サービス」と、「高齢者住宅入居」の 2 つが選択できるようになっています。

在宅介護サービスは、市の高齢者福祉センターが担い、家庭医制度(※4)との連携をとりながら、 24 時間の在宅サービスを受けられるようになっています。

 

高齢者住宅の居住設置基準は、日本は原則 25 平米(※5)に対して、 65 平米とされています。生活をすることが前提のため、各部屋にシャワー・トイレ・台所が完備されていることも必要になります。

一般的にデンマーク人は家の住み替えに抵抗がある人は少なく、生涯で住まいを 3 回以上変える人も少なくないそうです。

ただ、ある調査(※1)によると、施設に入りたいと思う 60 代は 0 %と、住み慣れた環境で老いていきたいという人が多い傾向にあるようです。

施設について詳細は、近日公開予定のコラム「光が射す高齢者が住む場所」 にて詳しくご紹介します。

 

先回りせず見守る介護

デンマークの介護 3 原則(高齢者福祉 3 原則)、 3 つ目は「自己能力の活用」です。

高齢者住宅の現場を見たときも、「手が届かない」「重たい」など物理的に人の手が必要だと思ったときに、自分で声をあげ、周囲に居るケアワーカーにサポートを求めていました
個々人の意識の差はあれど、生活に必要な全ての動作をケアワーカーや施設の設備等に任せきりにさせない姿勢が多く見られます。

また、介護の際に使用する福祉用具を効率よく使用しています。
例えば、部屋の中での移動についてはリフトを使い、本人の腕の力を最大限使えるような設計になっています。

日本の介護では、生活の動作全てを先回りしてサポートする事が多くみられます。

しかしデンマークでは、先ずは本人の意思が最優先。それを介護する側が動きを観察し、すぐに手を出さず見守るという姿勢。そして、介護する側も積極的に道具を使い、介護自体に身体的負担がないように行なうことに大きな違いがあるようです。

 

高齢者が高齢者のために作った理念

実はこの介護 3 原則(高齢者福祉 3 原則)、高齢者の声を持ち寄って創られました

国会で福祉改革の議論が行われた時期に、デンマーク全市町村に 100 以上の市民グループが立ち上がり、高齢者自身が自分たちの老後のあり方について議論する場が設けられました。
その場において、「自分たちが受けたい介護とは?」の対話が重ねられた結果、現在の介護 3 原則(高齢者福祉 3 原則)となっているのです。(※6)

※詳しくは近日公開予定のコラム「高福祉の要・高齢者委員会制度とは」にてご紹介します。

 

次回は、「光が射す高齢者が住む場所」。実際に視察をしたデンマークの高齢者住宅をご紹介します。

 

《参照資料》

(※1)2007年ケンブリッジ大学調査、2008年アメリカ・ワールド・バリュー・サーベイ調査、2013年国連調査

(※2)参照海外の介護保障を学ぶ-オランダ、ドイツ、デンマーク、フィンランド 成清 美治 学文社(2015)より抜粋

(※3)デンマーク高齢者福祉施設で働く日本人女性にインタビュー記録を土台として編集

(※4)1 人の家庭医が 1500 人から 1800 人を担当する制度。高齢者の医療情報を管理する

(※5)日本のサービス付き高齢者住宅の場合

(※6)デンマークに学ぶ高齢者福祉 ───政策イニシアティブが生み出すユーザー参加型社会 猪狩典子 5.1 ボトムアップで創られた明確な理念http://www.glocom.ac.jp/chijo_lib/118/052-062_A_igari.pdf

 

photo credit: Claudine Lamothe The colorful storefronts of Nyhavn via photopin (license)